匠ブログ

日本の田園都市構想におけるつまづき

1月号の続きです。エベネッザ・ハワードの提唱した田園都市構想を、日本に導入し近代日本の住宅地開発に大きく貢献したのが渋沢栄一(1840−1931)です。

彼はハワードの提言どおり、『田園都市株式会社』を設立し、田園調布などの住宅街を開発していきました。右の画像は、田園 調布の当時の開発図ですが、ハワードの著作『明日の田園都市』から大きな影響を受けていることが伺い知れます。田園都市株式会社は、現在の東急電鉄・東急 不動産の前身で、この会社の経営方針には渋沢の資本主義理念が反映されたことが、ハワードの構想と大きな違いを生むことになります。

ハワードは、『田園都市株式会社』に不動産開発会社としての機能と、開発した住宅街をそのまま保有して管理し続ける、管理会社としての機能の両方を備え ることを提言しました。つまり住民が、『田園都市株式会社』から購買するのは借地権で、毎年地代を収める『リースホールド』と呼ばれる契約関係を締結する ことを前提としたのです。英国ではこのリースホールドがいまだに主流です。
これに対し渋沢は、『田園都市株式会社』に開発会社に特化した機能しか与えず、各区の所有権ごと販売して売り切ってしまいました。日本人は土地を所有する ことに執着する傾向にあるので、通常の不動産販売として処理してしまったのです。長期借地権である『リースホールド』に対し、所有権を『フリーホールド』 と称します。

リースホールドでは、地主である『田園都市株式会社』が、優れた景観を維持するためにさまざまな規制を実施することが容易ですが、フリーホールドでは個 人の所有権が障壁となり、総合的な景観維持が困難になります。日本の住宅地が英国と比べ、雑然とし、統一感に欠けるのは、このためであると断言できます。 英国の住宅地が借地なのは、そもそも国家は王家や政府のものだという意識が根強く残っているからです。

では、アメリカはどうでしょうか?アメリカは断然日本と同様、フリーホールドが主流です。しかしながら、アメリカと日本の住宅街では、美しさの点では天と地程の差がある気がします。それは一体何故でしょうか・・・。
来月号はアメリカの住宅街について述べたいと思います。


デザイナー 小野清一郎 2013年2月1日 デザインについて一覧

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