匠ブログ
ストック利用の勧め 1
日本では相変わらずスクラップ&ビルドが盛んですが、欧米の住宅街では、美しい建築物は古くなってもリノベーションやリモデリングを行ってそのまま利用されることが常識です。裏を返せばそれだけデザインの美しい建築物に恵まれているということではないでしょうか。こういった既存の建築物や中古物件をストックと呼びます。
最近、日本でも「新築そっ○りさん」といった中古物件をリノベーションする企業も登場し、やっとストック利用の価値に市場が反応し始めたことは、大変喜ばしいことだと思います。そこで、今月から数回にわたり、弊社で手がけさせていただいたストック利用のケースを紹介したいと思います。
まずは原状を確認してみましょう。メンテが全くされずに放置されていた物件ですが、基本的な設計が非常に優れていたため、「これならイケる!」と直感いたしました。ちなみに、このような切妻が特徴的な非対称ハウスデザインを、日本ではよくアーリーアメリカンと呼んだりしていますが、正しくはモントレースタイルと称し、北カリフォルニアのモントレー周辺が発祥とされています。
1枚目は外構の様子で、門扉周りです。見事に荒れ果ててています。前のオーナーが転居されてからかなり久しいようです。
二枚目と三枚目の画像は、ファサードです。意外にも躯体の損傷は最小限な状況でしたし、なんといっても、基本設計がモントレースタイルの要所要所を押さえた、実に好感の持てるものでした。とても美しい設計だと思います。
基本設計は素晴らしいのですが、二箇所ほど私が容認できない部分がありました。一箇所目が次の画像です。
玄関ポーチの様子を示しているのですが、致命的な問題は、2本の細すぎるコラム(柱)です。ポーチを構成する切妻や歯風とのバランスが、全く成立していません。実に残念です。
そしてもう一箇所がこちらです。エレベーションのアクセントとなっているドーマーですが、日本で多用される一般的な引違い窓が嵌められてしまいました。アメリカで多く見られるドーマーは通常、シングルハングやダブルハングと呼ばれる上げ下げ窓なのです。この違いは開口部の縦横比に影響します。とはいえ、既に開口面積は変更できませんので、なんとかしてこのアンバランスな印象を改善しなければなりません。
今月は外部の様子を紹介しましたが、来月は躯体内部の状況を紹介いたします 。
デザイナー 小野清一郎 2015年4月1日 デザインについて一覧