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横浜市歯科医師会様の受付工事 1

 横浜市歯科医師会様から、「診療室の受付カウンター周囲を改善して欲しい。」との御要望を頂戴しました。個人のお施主様とは異なり、法人様や企業様の場合は、役員会や理事会にてプレゼンテーションを行った上で採用が諮られます。ちょっとした工事でしたが、しっかりコンセプトをお示しする必要がありました。面白いケースでしたので、紹介したいと思います。

 現場は、横浜市歯科医師会様が運営する「休日急患及び障害者歯科診療所」という病院の待合室と診療室を区切る会計カウンター周囲でした。
 原状が次の画像です。

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 お施主様のお悩みを順番に挙げてみたいと思います。まずは、

① パーテーションを構成する太い上部框が、ちょうど受付担当者や患者の顔面の高さにあり、非常に目障りである。
② 右手の掲示板(コルクボード)は内側に立て掛けるしかなく、不安定で、掲示物の視認性も劣る。

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 次に、パーテーションの中央部には夜間の防犯用のため、可動式のパネルが組み込まれていました。上の画像は、その可動パネルを閉じた状態を示します。この可動パネルにも問題がはらんでいました。

③ 可動パネルには対話用の開口が未設定なので、閉じた状態では会話が不明瞭になってしまう。
④ 可動パネルの下部に会計用の開口が設けているだが、その開口が広すぎるため、知的障害児らがカウンター上に乗って潜り込もうとしてしまう。

 また、次の画像はレジ周囲の様子ですが、ここにも会計用と思しき開口が設けられていました。ここでの問題が次の内容になります。

⑤ 不必要な開口がパーテーション全体の意匠的なバランスを崩す要因となっているだけでなく、会計業務の内部を暴露することになっている。

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 そして最後の画像がカウンター左手のレジ周囲の様子になります。ここでの問題がこちらです。

⑥ 数種類の部材を使用することで色調の統一性に欠け、審美的に非常に劣るフレームワークとなっている。

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 以上の各項目が全体のデザインから指摘された問題点でした。来月は細部の問題点について紹介したいと思います。


デザイナー 小野清一郎 2016年3月1日


横浜市歯科医師会様の受付工事 2

先月に全体的な問題点を御覧いただきましたが、今月は細部の問題点を確認したいと思います。次の3枚の画像は、可動式のパネルに滑車を固定する金具(ブラケット)です。

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 本来、この手の金物類が露出することは好ましくありません。なおかつ、金物とパネルはネジ止めされているのですが、接着剤で補強されています。この接着剤透明パネルを透けて見えています。この画像は患者さんがいらっしゃる待合室側から撮影したものですが、こういった見苦しい糊付け痕は、
見えない側、つまり受付のスタッフがいらっしゃる側へ裏返しに向ける方が仕上がりが美しいものです。

 そして最後の画像は、可動式のパネルの振れ止めの部分ですが、こちらも透明のパネルに接着しただけですので、いくら透明な材料を使用してもやはり見苦しい感じが否めません。

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 病院の受付という特殊な現場では、このように透明な建材を多用することが多いのですが、透明な建材だからこそ、細部の「アラ」が目立ってしまうことを十分に考慮して設計しなくてはなりません。

 これらの問題点を踏まえ、来月は横浜市歯科医師会様の理事様らにプレゼンテーションしたデザインについて紹介させていただきます。


デザイナー 小野清一郎 2016年4月1日


横浜市歯科医師会様の受付工事 3

 先月まで紹介した問題点を解決するために、私はパーテーションを天井までめいいっぱい延長するプランを提示しました。役員様方へのプレゼン時に使用したスライドがこちらです。

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 こうすることで横方向のフレームワークは天井とカウンターと一体化し、一気に目立たなくなります。
次に頭を絞ったのが、フレームワークに使用する部材です。これらは12ミリ幅の非常に細い枠材を導入しました。12ミリという極細の部材で畳1畳程のアクリル板を支えなければならないので、場所によっては奥行き方向に2本束ねて使用することにしました。水平方向の断面図がこちらです。

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 そして、最後に原状との比較を提示し、竣工後の様子をイメージしていただきました。そのスライドがこちらです。

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 本件は、プレゼンテーションが評価され、工事を受注することができました。来月は、竣工の様子を紹介いたします。


デザイナー 小野清一郎 2016年5月1日


横浜市歯科医師会様の受付工事4

今月はいよいよ竣工の様子をお伝えします。まずは全体像がこちらです。

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真ん中のパートはスライドさせると、待合室から完全に遮断することができます。

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 レジの前はグラディエーション・フィルムを採用し、光を取り込んで解放感を維持しつつ、防犯上の配慮もしました。

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 そして、今回の設計のキモは、複雑な構造物をすべて、折り上げ天井の段差を利用して、隠蔽してしまったことです。その様子をアップで捉えた画像がこちらです。

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 右の画像ではスライディング部を受け止める戸車がチラッと映っています。工事前と工事の様子を比較してみましょう。

before

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after

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もはや多くを語らずとも、御理解いただけることと思います。細かいところにこだわれば、結果は必ず現れます。それこそが、私たちがネジ一本に至るまで部材にこだわってデザインしている理由なのです。


デザイナー 小野清一郎 2016年6月1日


事務用キャビネット工事 1

 先月は病院様の受付カウンター工事の様子をお伝えしましたが、別の医院様のカウンセリングルームの収納について御相談を頂戴いたしました。
 こちらの医院様は都内の住宅地にあり、現調に伺った際も非常に患者さんが沢山お越しになられていました。こちらの医院様の特徴は、患者さんとのカウンセリングをしっかりやっていることだそうで、その肝心のカウンセリングルームをスッキリさせたい、との御要望が寄せられました。

 まずは原状を確認してみましょう。

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 既成品の収納ボックスを羅列した感じで、確かに雑然としていますね。

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 特にここが問題でした。おびただしいタコ足配線です。

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 これだけ配線が入り組むと埃が集積しやすく、自然発火する可能性が高まります。見た目以上に、防災上も問題が大きいですね。

 さて、課題のリスティングは終わりました。ここからデザインと機能性を高めて、新しい収納キャビネットをデザインしていくことになりました。来月に続きます。


デザイナー 小野清一郎 2016年7月1日


事務用キャビネット工事 2

 いよいよ工事です。ポイントは雑然としたタコ足配線をすっきりさせることです。今回、キャビネットの引出しの奥行をやや短縮し、その奥に配線を設置できるように工夫しました。

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 外枠の設置が完了しました。台上に置いているのは市販のコンセント(テーブルタップ)です。これをキャビネット内に増設することで、接続部を隠蔽しようという目論見です。

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 あれだけ雑然としていた配線は全てキャビネット内部に増設したテーブルタップにて隠蔽されて、整頓されました。キャビネット内なので静電気による埃の集積も減らせることが期待できます。
 面材のコーディネートも狙い通りです。ちょっとした工事でしたが、寸法精度等にもこだわったので、デザイナーとしても竣工時は充実した気分を味わえました。
 この工事を御縁に、こちらの医院様からはカルテのキャビネットの工事も御発注いただきました。御用命頂き、誠にありがとうございました。そちらの報告はまたいずれ披露したいと思います。


デザイナー 小野清一郎 2016年8月1日


建材買付けツアー1

 毎日、暑い日が続いていますが、皆様、体調を崩されたりしておりませんか。くれぐれも御自愛ください。
 さて、私は8月の夏休みを利用して、建材や家具の買付けツアーを開催いたしました。現在携わっているプロジェクトのお施主様を、私どもが日頃ベースにしているオレゴン州ポートランドへお連れいたしました。その際の模様は今後、順次こちらで紹介していきたいと思います。

 現地の様子はとにかく景気が良さそうでした。建材や家具もここ数年来、値上げ傾向が続いています。しかし、それを差し引いても日本との内外価格差は依然大きく、結果的には今回も内装材のほとんど全てを仕入れることとなりました。

 ポートランドの夏は晴れた日が多く、日中は日本と同様の気温になりますが、よく言われる湿気のない暑さ、カラッとした暑さで非常に凌ぎやすいです。高い日差しが豊かな木々の葉を輝かせる様子が私は大好きで、美しい住宅街と相まって本当に安らかな気持ちになれるのです。
 お施主様の歯医者さんもオレゴンは初めてとのことで、非常にお気に召した御様子でした。

 この話題を中心にこれから暫くお伝えしていこうと思います。


デザイナー 小野清一郎 2016年9月1日


建材買付けツアー2

 早朝のポートランドに到着しました。まずはホテルの周囲を散策しました。そばの公園がこちらです。
夏のポートランドは本当に澄み切った青空が拡がり、実に気持ちがよいのです。緑が輝いていますね。

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 こちらもホテルのそばにあるトラムの駅です。最近のアメリカは脱自動車社会の気配が感じられます。都市のあちらこちらでトラムの計画があります。

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 散歩をしたら空腹になりました。近くのレストランで朝食とします。毎度のことですが、そのポーション(量)には呆れるばかりです。私のパンケーキとお施主様のオムレツの画像です。二人とも完食できなかったのは言うまでもありません。

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 満腹になったところで、今回の旅程を検討しました。まずは明日、照明器具を攻めることになりました。


デザイナー 小野清一郎 2016年10月1日


建材買付けツアー3

 翌日からは買付け三昧でした。まずは弊社の取引先のうち、照明器具の問屋を訪ねます。大量の在庫が宝の山のようです。この問屋とは昭和60年代からのお付き合いです。かれこれ30年以上の取引があり、お互いに非常に信頼できる関係です。

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 弊社が起業した当初は、小規模なリノベーションとそれに伴う照明器具や家具の輸入から開始いたしました。日本の家庭用電力システムはアメリカのそれを導入していますので、プラグ形状がほぼ同一なだけでなく、交流電圧が日本は100Vであるのに対しアメリカは110Vですので、変圧しないでそのまま使用することができます。周波数は東日本が50Hz、西日本が60Hzであるのに対しアメリカは60Hz。東日本で注意するのは、モーターやコンプレッサーといった機器の作動に影響があり、具体的にはシーリングファンや冷蔵庫等に注意が必要です。西日本は全く影響なく、そのまま何でも使用できます。
 大量の商品にお施主様は面食らっていらっしゃったようですが、じっくり吟味し、今回のプロジェクトで使用する照明器具を全て調達することができました。明日は家具屋を回ります。


デザイナー 小野清一郎 2016年11月1日


建材買付けツアー4

 さらに次の日は、待望の家具屋を回りを行いました。ある家具屋ではこのダイニングセットを購入しました。

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 非常に高級そうに見えますが、アメリカでの価格は驚くほどリーズナブル。デコラティブな意匠の家具はアメリカで購入するに限ります。材料の木をふんだんに使いつつ非常に安価に購入することができます。
 ところで、このダイニングセットは歯科医院のスタッフさん達が昼食の際に使用する目的で購入しました。従業員の方々には優雅で贅沢なお昼休みになりそうですね。

 さて、午前中に数件を回り、我々にもランチタイムがやってきました。私は左のハンバーガー、お施主様は右のツナサンドを試しましたが、面白いことに歯医者さんのお施主様に、福引で歯ブラシが当選しました。サンドイッチと歯ブラシの組み合わせが笑えました。

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 午後も残りの家具屋を回って、必要な家具類は概ね調達に成功しました。家具だけでなく、絵画や置き時計等のファーニッシング(デコレーション)アイテムも多数調達し、長い長い1日が終わりました。


デザイナー 小野清一郎 2016年12月1日


買付けツアーのその後1

 皆様、新年、明けましておめでとうございます。昨年は熊本地震をはじめ多くの自然災害に翻弄された一年でした。本年が皆様にとって穏やかで幸多い年であることを祈念いたします。

 さて、昨年の夏から連載しています「建材買付けツアー」の件ですが、いよいよ今年はそのプロジェクトが現場着工いたします。今月からはブログのタイトルを「買付けツアーのその後」と題して、新たなシリーズを展開しようと思います。今月はその第一回目となります。どうぞ竣工までお付き合いください。

 今回のプロジェクトは、横浜市の歯科医院様の新築工事になります。昨年中に弊社にて基本設計を終え、北米系の輸入建材の調達のためにお施主様である院長先生と渡米したことは、昨年のブログ9月号から連載したとおりです。
 現場は横浜市の西部に位置する泉区内の住宅地と農地の境界部で、こちらが現況です。平坦な更地で条件は良さそうですが、奥に向かって先細る異形であることが大きな特徴です。

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 こちらは航空写真です。赤い線で囲んだ部分が現地です。北側に接道し、南側に向かって、つまり土地の奥の方に向かって先細っていく様子が分かります。異形な土地ではありますが、西側には小学校の正門があり、登下校時には、この医院さんの前を小学生たちが沢山往来することがイメージできます。医療機関としての立地条件は、非常に良好と思われます。ここに周囲の環境に調和しつつも、上品で清潔感のある設計をすることで集客性を高めることが私に課せられたミッションです。

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 求積図がこちらです。56.78坪と記載されています。戸建ての商業施設としては十分な面積ですが、やはり地型が異形なことが懸念材料です。来月は設計についてお伝えしたいと思います。

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デザイナー 小野清一郎 2017年1月1日


買付けツアーのその後2

 横浜市泉区の歯科医院新築物件につき、今月は設計についてお話ししたいと思います。
 この土地に対して他の設計事務所から提示されたのが次の図面です。

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 歯科医療用の診療台が3台描かれていますが、お施主様の御希望は4台とのことでした。
 また、駐車台数が、患者さん用に普通車3台と小型車1台、スタッフさん用に普通車1台と小型車1台、そして駐輪スペースという設計でしたが、お施主様の希望は、患者さん用に普通車用のスペースを4台とスタッフさん用に小型車用でもよいので3台分を確保して欲しいというものでした。

 結局、この設計事務所とは相性が合わず、弊社に御依頼されることとなりました。が、それにしてもこの設計にはデザイナーの私も閉口いたしました。動線とは呼べない代物の複雑で使い勝手の悪そうな部屋割り、醜悪なエンバイロメント(外壁周囲の形状)、土地形状の活用度が著しく低い建物配置などなど、およそ「設計」と呼ぶにはお粗末過ぎるものだからです。醜悪な設計にお悩みのお施主様とこれまで多数お目にかかってきましたが、これほどまでに酷い設計は本当に久方ぶりでした。これでも地元では名の知れた設計事務所さんのお仕事ですので、本当に悲しくなりました。

 結局私は、ゾーニングからゼロベースで徹底的にやり直し、次のようなプランを提示させていただきました。内部の設計はまだ公開いたしませんが、診療台を4台収めることに成功いたしましたし、駐車台数も患者さん用に普通乗用車5台分、スタッフさん用に普通乗用車3台分、そして駐輪スペースも当然確保し、お施主様の御希望以上の台数確保を図りました。

 また肝心のデザインですが、御覧のとおりエンバイロメントはシンプルな主棟を中心とし、オクタゴニアルタワーの袖棟をアクセントで接続させるビクトリアンスタイルを導入いたしました。このタワーの形状により今回の最大の問題だった土地の異形性を干渉することを意図しました。結果として、このようにスペース有効性を格段に向上させることに成功いたしました。

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 いよいよ来月から着工の様子をお伝えしていく予定です。


デザイナー 小野清一郎 2017年2月1日